2023/07/08
今話題の坂入健司郎率いるアマチュアオーケストラ、東京ユヴェントス・フィルハーモニーの2016年1月のライヴ録音です。アマチュアとは思えない磨き上げられた技術力と、坂入のスケールの大きさが印象的な演奏です。HMVのサイトで許光俊さんが激賞していたのも頷けます。
東京ユヴェントス・フィルは、2008年「慶應義塾ユースオーケストラ」の名称で慶應義塾創立150周年を記念する特別演奏会のために慶應の高校生、大学生を中心に結成。2014年には、幅広い年齢層や出身メンバーが集い、より門戸を広げて文化活動に貢献する存在であり続けることを願い、名称を「東京ユヴェントス・フィルハーモニー」に変更しました。「ユヴェントス」は「若者」や「青春」を意味するラテン語に由来します。
指揮者の坂入健司郎氏は、1988年5月生まれ。慶大経済学部を卒業しました。指揮法を小林研一郎氏、井上道義氏らに師事したそうです。13歳で初めて指揮台に立ち、2006年に慶應高校ワグネル・ソサィエティ・オーケストラの指揮者に就任、2008年から東京ユヴェントス・フィルを結成し音楽監督を務めています。
このブルックナーのCDはすみだトリフォニー大ホールでのライヴ録音です(アルトゥス)。当日前プロで演奏されたドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」も収録されています。
第1楽章を聴き始めてすぐに、アマチュアにありがちな危なげなところがまったくなく、自信を持って演奏を進めているのがわかります。テンポは遅めで、じっくり踏みしめるような歩みが堂々とした印象を強めています。ソロ奏者も押しなべて水準が高く、トゥッティでは各楽器が溶け合った分厚い音が鳴り響きます。
第2楽章も、どこを取っても自分たちの音楽になりきっていて、本当に驚かされます。相当練習はしているとは思いますが、正直、これほどの演奏がアマチュアでできるとは聴く前には予想できませんでした。トリオの心からの詠嘆はブルックナーを聴く醍醐味を感じさせてくれます。
第3楽章もじっくり進みます。一つ一つの音を慈しむように演奏が進みます。第4楽章も慌てず騒がず、丁寧に楽譜を音にしていき、最後の壮大なコーダでは残っているすべての力を出し切ります。
全体を通じて、ヨッフムのようなテンポを細かく動かすようなタイプではなく、チェリビダッケのような遅めのインテンポで細部の彫琢に気を遣うタイプの演奏に近いような印象を受けました。
それにしてもこの坂入という指揮者は大したものだと思います。楽譜からこういう音楽にしたいというイメージがあっても、それを実際のオケを使って音にしていく作業には相当のギャップがあると思えるからです。そういう実際的な技術は、ふつうは下積みから始めて、オーケストラにもまれながら現場で会得していくのではないでしょうか。
坂入という人がどういう専門的な指揮者教育を受けたか、ライナーノートからは分かりませんが、ここに聴くブルックナーからは、経験不足や消化不良といった印象がまったくないのは、やはり驚くべき才能ではないかと思います。
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