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細かいことにこだわらない気持ちよさ~ミュンシュのベートーヴェン

time 2021/02/02

 私にとって、シャルル・ミュンシュという指揮者は、同じRCAレーベルの看板指揮者だったということもあってか、フリッツ・ライナーと似たような印象をずっと持っていました。

 今では、全く違うタイプの指揮者だと認識していますが、今回、ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のベートーヴェン「運命」「田園」がカップリングされた1枚を聴いて、「やはり似ているところもある」と感じました。その演奏を例えるなら、どちらも「雄渾」「剛毅」「直線」といった形容詞がふさわしいように思います。

 アメリカの交響楽団(ライナーはシカゴ交響楽団)というのも共通項として大きいのではと思っています。あいまいさを嫌い、明晰さ、楽譜に書かれている通りの愚直な再現を重んじるという点は、独墺系の伝統のない(移民はいたと思いますが)オーケストラとして、日本にも共通する特徴だと思います。そういえば、ピッチも高めの欧州に対し、米国や日本のオケは概してA(ラ)=440Hzという基本を守っているのも、共通しています。

 話は変わりますが、2006年に亡くなった指揮者の岩城宏之さんの著作は、いろいろな演奏家の思い出話が多く出てきて、とても面白いです。晩年の2001~2004年に「週刊金曜日」に連載された「音の影」(単行本は文芸春秋刊、たしか文庫も出ていました)では、「好きな指揮者を五人挙げろと言われたら、」と書いて、カラヤン、カイルベルト、バーンスタイン、ミュンシュ、バルビローリを挙げています。続けて「三人だけ挙げろ、と言われたらバルビローリとカイルベルトを落とす、と書いています。さらに続けて、「一人だけ、と言われたら何の迷いもなく、ミュンシュと言う」と書いています。

 1960年、ボストン響と来日したミュンシュの演奏会を聴いて、ファンになった経緯を書いています。

「まさに黒船の襲来だった」。日本のオーケストラの何倍もの音量に圧倒されたということでした。日比谷の旧NHKホールでの練習を聴き、「その時のラヴェルの『ダフニスとクロエ』のクライマックスでの、ボストン交響楽団の音量を忘れられない。あまりの凄まじい音量━しかも、美しい音響にクラクラしてしまい、一種の脳震盪のような状態になった」と感激を述懐しています。

 それだけ音量が大きかったのでしょう。岩城さんはオケを鳴らすのがとても上手かった指揮者で、追悼番組でNHK交響楽団の元コンマスの徳永さんも語っていました。私自身、岩城さんのコンサートはそんなに聴いていないのですが、友人に勧められて聴いた晩年のサントリーホールでのOEK(オーケストラアンサンブル金沢)とのブラームス交響曲第3番での芯の太い歌や、東京フィルとのラフマニノフの交響曲第2番の圧倒的なロマンティシズムが忘れられません。ラフマニノフは音の悪いオーチャードホールだったのですが、一緒に聴いた友人によれば、「オーチャードが『箱鳴り』したのを聴いた」と感激していました。この岩城さんのオケの鳴らし方の上手さは、このミュンシュ・ボストン響を聴いた経験が元になっていたのかもしれません。

 ついでながら、練習の翌日の本番に、岩城さんは、「少し年上」のある指揮者と行ったそうですが、この指揮者が冷静で全く興奮せず、鼻白んだ岩城さんは、プイと会場を出てきてしまった、とも書いています。岩城さんは具体名は書いていません。私は福永陽一郎氏ではないかと思っていますが、さてどうでしょう。

 ずいぶん脱線してしまいました。ミュンシュのベートーヴェンです。人気指揮者だったのにもかかわらず、全集はありません。1、2、4、8番当たりもあまり見かけません。RCAに録音したところでは、3、5、6、9当たりが有名ですが、私は5、6の1枚しか持っていません。

 冒頭にライナーとの類似点を書きましたが、テンポ変動が少なく、速めのテンポで進むという意味で「ザッハリヒ」という点ではライナーと共通していても、一番の違いは弦楽が豊かなことでしょう。木管があまり出てこないのは「田園」では少し不満を感じます。何よりも弦楽器、そしてヴァイオリニスト出身からか第1ヴァイオリンのしなやかで豊麗な歌はとても魅力的です。そしてライナーが「冷たい」としたら、ミュンシュはとにかく「熱い」。煽り立てるような爽快感とエネルギー量の高さ、それらによる「勢い」が、ミュンシュの音楽の最大の特徴でしょう。

 木管が浮き出てこないのが不満と書きましたが、一事が万事、細部の声部バランスなどにあまりこだわりません。でも、そのことによって、とても魅力的な、なりふり構わぬ一心不乱な歌が生まれているのもまた事実です。

 考えてみれば、名盤とされるベルリオーズ「幻想交響曲」、ブラームスの第1交響曲(どちらもEMI)も、そうしたミュンシュの長所(たぶん短所も)が最大限発揮されているのだと、あらためて思った次第です。

 

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