2023/07/08
マーラーの交響曲第7番ホ短調 「夜の歌」は、楽器編成、演奏時間ともに巨大な交響曲です。そして西洋音楽の伝統から見ると、異形な交響曲でもあります。マーラーの交響曲の中では難解な方かもしれませんが、一度その魅力に取りつかれると一生の宝となります。根強いファンが多く、その意味ではマーラーの交響曲の中では第3番に近い存在かもしれません。私個人的には、マーラーの最高傑作ではないかと思っています。
ギターやマンドリンを含む大編成のオーケストラを必要とするこの交響曲は、1905年に完成しました。題名の「夜の歌」は、全5楽章のうち第2楽章、第4楽章が「夜曲(ナハトムジーク)」と名付けられていることに由来します。第3楽章スケルツォを中心に2曲の夜曲、その外側に両端楽章という対称的な配置となっています。演奏時間は通常80分前後ですが、オットー・クレンペラーのニュー・フィルハーモニア管弦楽団の録音(EMI)は何と100分もかかっている最長の演奏です。
第1楽章は、引きずるような弦のリズムに乗ってテノールホルンが半音階的な主題を提示します。第2楽章は行進曲調の夜曲。第3楽章は「影のように」と指示されたスケルツォで、哀愁を帯びた旋律が展開されます。
第4楽章はセレナーデ。通常のオーケストラでは用いられないギターやマンドリンが夜曲の雰囲気を醸し出します。中間部のせつないような懐かしいような旋律は、マーラーが書いた最も美しい旋律だと思います。
第5楽章ロンド・フィナーレは一転して「昼の音楽」です。ティンパニの威勢の良い連打に始まり、金管が高らかに主題を吹奏します。多彩に変奏されながら複雑に展開し、最後に高らかに第1楽章第1主題を回想して力強く曲を結びます。
CDは、先ほど触れた最長演奏時間のクレンペラー盤があらゆる面で群を抜いた名演です。第1楽章の冒頭は弦の刻みまでくっきりと聴こえます。遅いテンポなのに異様な緊張感があり、説得力が強いです。オーケストレーションも透けて見えるような明晰さがあります。
第2楽章、第4楽章の2つの夜曲も見事。遅いテンポでじっくり丁寧に歌います。楽器の強調の仕方も独特で、対位法なども明晰に表現されます。第4楽章ではギターやマンドリンがよく聴こえます。そして第5楽章は何度聴いても「遅すぎる」と感じますが、そのスケールの大きさは圧倒的です。
クレンペラーはマーラーの弟子でしたが、録音はこの7番以外に2、4、9番と「大地の歌」しか残していません。弟子ではあっても本当に気に入った作品しか録音しなかったのでしょう。どれも名演ですが、特にこの7番はクレンペラーの曲への愛着が伝わってくるような演奏ではないでしょうか。
オーソドックスな名演として挙げたいのは、クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィルの1980年のスタジオ録音盤(EMI)です。一般的には同じコンビの1993年のライヴ録音(EMI)の方が評価が高いようですが、あちらは私には少しテンションが高すぎます。
旧録音はまったりしたいて、テンシュテットのいつものエキセントリックさは影を潜め、丁寧にマーラーの音符を音にしている風情です。ロンドン・フィルの少しくすんだ響きもこの曲に合っているように感じます。特に2つの夜曲のかそけき詩情は印象に残ります。
そのほかでは、ベルティーニ・ケルン放送響、アバド・シカゴ響、ノイマン・チェコフィルなどが良い演奏だと思います。
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