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シャープで豊麗な名演~アシュケナージのR・シュトラウス「英雄の生涯」

time 2022/02/28

 リヒャルト・シュトラウスの交響詩・交響曲はいろいろ人気のある曲が多いですね。「ドン・ファン」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」「死と変容」「ドン・キホーテ」、それに「アルプス交響曲」や「家庭交響曲」。第二次世界大戦後の欧州の没落を嘆いた晩年の傑作「メタモルフォーゼン」もあります。

 これらの曲の録音としては、ルドルフ・ケンペがドレスデン・シュターツカペレを振ったEMI盤が録音の良さもあって、やはり第一に挙げられるべきでしょう。私もケンペのシュトラウスは大好きです。ケンペの解釈に癖がなく、何よりもオケの緻密で豊潤な音が魅力です。このほかでは豪快、豪華なカラヤン・ベルリンフィル、シカゴ響の機動性を最大限まで発揮したショルティ盤などが一般的な名盤といえましょう。

 今回、紹介したいのは、ヴラディーミル・アシュケナージ指揮 クリーヴランド管弦楽団のCDです。デッカレーベル、録音は1984年、クリーヴランドのホームグラウンド、マソニック・オーディトリアムでの収録です。

 この頃のアシュケナージは、モーツェルトのピアノ協奏曲の弾き振り(デッカ、フィルハーモニア管)などで指揮者としての才能も示し始め、シベリウスの交響曲など指揮者としての録音、活動にも重心を置き始めた時期だと思います。ちょうどこの頃、フィルハーモニア管の来日公演を聴きました。R・シュトラウス「ドン・ファン」、モーツァルト「ピアノ協奏曲第25番」(弾き振り)、ベートーヴェン「田園」という王道のプログラムでしたが、小さいからだを大きく動かし、スケールの大きな演奏をしていたのを記憶しています。

 少し後、1980年代後半でしたか、英国のロイヤル・フィルとも来日しました。コンサートは行けなかったのですが、後日FMで聴いたR・シュトラウス「英雄の生涯」はなかなかの名演だったと思いました。

 当時はR・シュトラウスを得意としていたのでしょう。クリーヴランドと主要な交響詩を録音していて、どれも名演だと思います。だいぶん後に、チェコ・フィルと再録音していますが、そちらは聴いたことがありません。

 一般に、ピアノ出身の指揮者はオーケストラに曲を構築するための「アイディア」を与えるのが得意で、ヴァイオリン出身の指揮者は、実際の演奏上の問題点の解決やテクニカルな面を解決するようなことに長じている、という言われ方をします。

 ピアニスト、アシュケナージの指揮がどちらかというと、正直言ってよくわからないのですが、少なくとも巧い指揮ではないというのは誰も否定しないでしょう。2004年からNHK交響楽団の音楽監督をしていましたので、テレビで見る機会も多かったのですが、ひじが固く、下から突き上げるような動きが多く、オケからしたら、弾きにくかったのではないかと想像します。

 ダイナミックで硬質な音楽性といっていいかもしれません。柔らかい曲でも、あの固いひじの動きでは意図した音は引き出せないと思います。

 元N響首席オーボエの茂木大輔さんの「交響録~N響で出会った名指揮者たち」(音楽之友社)は、N響に客演した錚々たる指揮者たちの裏話が豊富で、とても面白い本なのですが、アシュケナージについては、こう書いています。

 まあ正直、指揮はお世辞にもカッコいい、スマートなもの、お上手なものではないのだが、本当にすごいところもあった。まずレパートリーのとんでもない広さ。それも編成の大きな複雑な、珍しい作品も数多く指揮されていた。おそらく1回スコアを開いて読んだだけで超高速で自分のものになってしまうのだろうと思えた。さらに「野生のカン」のようなものが鋭くて、いきなり本質を理解してしまっている感じもあった。

 (中略例えばチャイコフスキーの交響曲第4番はとても重苦しい一見不規則な9/8拍子で書かれており、指揮者もオケも苦労する作品だが、なんとアシュケナージはこの楽章は通常の三つ振り(3/8が3回)ではなく、四つに振っていた(3/4+3/8)で振っていた。大きいワルツに小さいワルツがくっついている感じで、演奏してみると、まさにこれこそがこの楽章の本質!と深く感動した。(後略)

 と、書いています。オケ現場ならでは大変興味深い記述です。第1楽章だと思いますが、ここはふつう3つに振るしかないのだと思いますが、揺れ動くような楽想を表すのに、四つに振るのはとても理にかなっているように思います。テクニシャンとはとても言えない棒だとしても、こうした点では、本質を突いた、やはり素晴らしい棒のテクニックを持った人なのだなと思いました。

 さて、クリーヴランドとのR・シュトラウスです。デッカの優秀録音とも相まってどの曲も非常な名演なのですが、「英雄の生涯」は始まりから終わりまで一気に聴かせてしまうような超名演だと思います。

 この曲、冒頭の大きく上行する音型ですべてが決まるといってもいいのかと思うのですが、アシュケナージのはシャープに突き刺さってくるような、それでいて重みも感じるとても良い音です。クリーヴランドの「英雄の生涯」といえば、ロリン・マゼールの旧録音(ソニー)も最初の音の鋭さが印象的でしたが、アシュケナージもまさにそういう感じです。

 クレジットがありませんが、ヴァイオリン・ソロはおそらくダニエル・マジェスケだと思います。マゼール盤でも弾いていましたが、とてもしなやかで艶やかで、魅力的なソロです。

 「英雄の戦い」では、オケの実力が全開に。録音の優秀さもあって、大した迫力です。

 そして最後、人生を回想するところでは、後ろ髪を引かれるような、まったりとしたニュアンスを心をこめて表出しており、堂に入ったものです。あの固い指揮からこのような柔らかい音を引き出すとは、やはりなかなかのテクニシャンです。

 「英雄の生涯」がお好きな方にはぜひ聴いていただきたい名盤です。 

  

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