2023/07/08
ブラームスの交響曲第4番ホ短調 作品98は、ブラームスの4つある交響曲のうちでも1、2を争う人気曲でしょう。憂愁の第1楽章、フリギア旋法を用いた第2楽章、シャコンヌ形式の第4楽章など、擬古的な手法を用いながら、ロマン性も盛り込んだ円熟期の傑作です。ブラームス自身、「自作で最も好きな曲」と述べています。
私はこの曲は、秋から冬にかけての曲だと思います。まだまだ暑い日が続きますが、ここ数日、朝晩に虫の声が聴こえるようになりました。そんな季節に公園などの緑の中を歩いていたりすると、ふと、第1楽章冒頭のため息をつくようなヴァイオリンのメロディーが頭の中に鳴ってくるのです。
ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団(1959年、ソニー)はベートーヴェンの「田園」と並ぶ、ワルター晩年の至高の名演です。ステレオ最初期の名盤として何度も再発売されています。
ワルターと聞くとロマンティックな印象を受けますが、晩年のコロンビア響との録音は、総じてテンポはあまり動かさず、楷書的な演奏が多いです。このブラームスも第1楽章から意志的な表現でどこか決然とした風情があります。低弦の動きなども克明に表現されますが、騒がしくならないのは、やはり巨匠の芸というほかありません。
第2楽章は寂寥感が十分に表現されます。あれこれいじるのではなく、佇まいそれ自体が「詫び寂び」の境地にあるような。ロマンティックとは程遠い演奏ですが、フリギア調の擬古典的な曲調にはぴったり合っています。オケの編成が小さく、響きが室内楽的ともいえる透徹感があります。
古典的な第3楽章に続き、第4楽章も第1楽章同様、淡々と進めながら随所で力に満ちた表現が聴かれます。変奏を重ねながら盛り上がっていき、中間の寂寥感に満ちた部分を経て、駆け抜けるようにコーダへと至る設計の妙。まさに巨匠の至芸といえる演奏です。コロンビア響も密度の濃いアンサンブルと、一音たりとも気を抜かない必死の演奏でこたえます。
もう1点、サー・ジョン・バルビローリ指揮ウィーン・フィル盤(1967年、EMI)を挙げたいと思います。全集のうちの1曲です。ワルターが古典的とすれば、こちらはロマン派な演奏と言えます。
バルビローリは情の濃い、ドラマティックな演奏が持ち味ですが、ここではややそうした特徴は影をひそめ、曲に応じた諦念、寂しさといったものを強く打ち出しています。ウィーン・フィルの上手さはやはり素晴らしく、これぞブラームスの響きと言いたくなります。
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