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ドイツ正統派の面目躍如 ベートーヴェン「ワルトシュタイン」 ルドルフ・ブッフビンダー(P)

time 2017/08/15

もう亡くなった音楽評論家で小石忠男という人がいて、ときどき「ブラブーラな」という表現を使っていたのがすごく印象に残っています。何となくソプラノのコロラトゥーラに似た、高音を転がすような演奏法なのかなと、あまり深く追求せずにいたのですが、ベートーヴェンのピアノソナタ第21番ハ長調作品53「ワルトシュタイン」から受けるイメージは、この「ブラブーラ」なのです。特に第3楽章がそんな感じです。

「ブラブーラ」(bravura)をネットで調べると(goo辞書)、

1 《音楽》ブラブーラ:高度な技巧を必要とする華麗な曲

2 勇壮、華美、華やかな演奏、(演技の)威勢の良さ

とあります。語源はどうもイタリア語らしいです。オペラとかからきているのか、詳しくは分かりませんでしたが、ホロヴィッツが超絶技巧で華やかに弾くアンコールピースなどを連想しました。

閑話休題。

ワルトシュタインはベートーヴェンの32曲あるピアノソナタのうちでも最も人気の高い曲の1つでしょう。明るく力強く、壮麗で意志の力に満ちた曲で、「ピアノのための英雄交響曲」とも評されることがあります。

1803年に難聴により悩んでいたベートーヴェンにフランスのエラール製のピアノが贈られました。このピアノは5オクターブ半の広い音域を持っていて、刺激されたベートーヴェンは1803から1804年にかけて作曲したのが「ワルトシュタイン」です。曲名は、この曲がフェルディナント・フォン・ヴァルトシュタイン伯爵に献呈されたことに由来します。

この時期はヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」や、交響曲第3番「英雄」など中期の傑作が生み出された時期で、このワルトシュタインも中期ピアノソナタの傑作として人気の高い曲です。

第1楽章は打楽器のような和音連打による第1主題とコラール風の第2主題の対比が見事です。短い第2楽章は瞑想的な音楽。第3楽章は先に書いたように、難しい技巧が盛り込まれた、まさに「ブラブーラ」な作品です。演奏時間は約20分です。

ルドルフ・ブッフビンダーの新しい全集(2010から2011、ライヴ、RCA)が素晴らしいです。

ウィーンの伝統の継承者、ブッフビンダーはいまや巨匠として尊敬を集めています。私はあまり聴いたことがなかったのですが、このベートーヴェンを聴いて素晴らしさに圧倒されました。

基本的にドイツ系のオーソドックスな解釈です。奇をてらうことなく、音楽に真摯に向き合う姿勢が伝わってくるような全集です。

かなりテクニックのある人なのでしょう。ライヴ録音ですがほとんどキズがないです。全集を通じてライヴらしい勢いや感興の高まりも十分感じられます。

ワルトシュタインも冒頭から快速テンポで飛ばします。スピード感は、世評が高く、私も好きなフリードリヒ・グルダといい勝負です。快速テンポですが、第2主題などではしっとりと歌うので一本調子な感じはありません。コーダの白熱した盛り上げも素晴らしいです。

瞑想的な第2楽章に続き、第3楽章のきらめくような主題提示が始まります。何度聴いても、誰の演奏で聴いても感動的な部分なのですが、ブッフビンダーの演奏もキラキラと輝くような音がじつに魅力的です。終わりの盛り上げも大変感動的でした。

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