2023/07/08
ピアノ・トリオの続きでもう1曲。
ベートーヴェンのピアノ三重奏曲 変ロ長調 作品97 「大公」です。
ベートーヴェンが1811年、41歳の年に作った曲で、ルドルフ大公に献呈されたため、この名が付いています。題名にふさわしく、堂々とした気品と優雅さがある曲で、ピアノ三重奏曲の中でも最も多く演奏される曲です。
ルドルフ大公はアマチュア・ピアニストとして相当な腕前だったといわれています。この曲もピアノが主役を演じます。第1楽章冒頭、ピアノで提示される第1主題は、一度聞いたら忘れられないほど明るく気品のある旋律です。
数多くのトリオが録音していて、古くはコルトー、ティボー、カザルスの「カザルス・トリオ」、ルービンシュタイン、ハイフェッツ、フォイアマンの「100万ドルトリオ」から、現代に近いところではアシュケナージ、パールマン、ハレルのトリオ、バレンボイム、ズッカーマン、デュ・プレのトリオなど、いろいろなCDが出ています。
その中でも私が好きなのは、スーク・トリオ(パネンカ、スーク、フッフロ)のものです。1975年のデンオン盤(PCM録音)です。スーク・トリオの大公には複数の録音があり、同じメンバーだと1961年のスプラフォン盤があります。1983年にも録音していて、ここではピアノがパネンカからハーラに変わっています。61年盤は録音も含めてやや古い感じ。83年盤も悪くはありませんが、やはり絶頂期の75年盤が、1番曲想にもふさわしいといえるでしょう。
パネンカ(ピアノ)、スーク(ヴァイオリン)、フッフロ(チェロ)の旧チェコスロバキアで最高のソリスト3人が一堂に介する贅沢!ソリストとしてはもちろん、室内楽奏者としても最高なのです。
演奏は、まさに「横綱相撲」です。この時期のスーク・トリオは本当に風格があります。柄が大き過ぎるという批判がもしかしたら出来るかもしれませんが、この曲やチャイコフスキーのピアノ三重奏曲「ある偉大な芸術家の思い出のために」のような曲だと、私は全く違和感がありません。一世を風靡したデンオン(日本コロムビア)のPCM録音の優秀さも特筆すべき出来映えです。
もしかしたら個々人のテクニックだけなら61年盤の方が上かもしれません。そして親密な情緒なら83年盤も捨てがたい良さがあります。こうなると好き好きかもしれませんが、私は75年盤の風格に惹かれます。
もう1点挙げるなら、DGのケンプ、シェリング、フルニエです。臨時編成ですが、ヨーロッパの超一流のソリストというのは、当然のように室内楽の素養も持ち合わせていることを感じさせます。
正直、技のキレならスーク・トリオに1歩も2歩も譲ります(もちろん、不足があるわけではありません)。しかし、そういう次元とは別の予算額あります。うまく言えないのですが、フルトヴェングラーに通じるヨーロッパの教養主義の重みというか。本当に言葉ではなかなかうまく言えません。
この曲の1番の特徴を「気品」ととらえるならば、ケンプたちの演奏が、1番ふさわしいように思います。
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