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ライヴさながらの緊張感 チャイコフスキー「偉大な芸術家の思い出のために」 スーク・トリオ

チャイコフスキーはあまり室内楽曲を作曲したイメージはないですね。このピアノ三重奏曲のほかには、第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」が有名な弦楽四重奏曲第1番が知られているくらいでしょうか。

何といっても有名なのは「偉大な芸術家の思い出のために」と題されたピアノ三重奏曲イ短調 作品50です。1881~1882年にかけて作曲されました。旧友であり、ピアニスト・作曲家・指揮者であるニコライ・ルビンシテインを追悼するための音楽です。

2楽章構成ですが、約50分の長大な曲です。またピアノに高度な演奏技術が要求され、チャイコフスキーのピアノを使った作品の中で、最も演奏が至難だとされています。

第1楽章はソナタ形式で構成。哀愁を帯びたチェロ独奏によって始まります。第2楽章は主題と11の変奏、それにコーダで構成されます。全曲を通じて悲痛で荘重な雰囲気に支配されていて、その中に叙情美や華麗な技巧が散りばめられた魅力的な曲で、ピアノ・トリオの重要なレパートリーになっています。

演奏は、スーク・トリオの2度目の録音が素晴らしいです。1976年デジタル録音(デンオン)。3人が円熟を極めた絶頂期の録音です。

この曲ではよほど感興が高まっていたのでしょうか、他の録音よりもライヴ感が強く、3人が自己主張を大いに発揮した丁々発止の演奏が繰り広げられます。特にピアノのパネンカのヴィルトゥオジティ(妙技)は他の録音では聴かれない圧倒的なものです。ヴァイオリンのスーク、チェロのフッフロもパネンカに触発されたのでしょうか、普段のどちらかといえば格調の高い彼らの演奏からはなかなか想像できない熱中ぶりを示します。

それでいてアンサンブルが乱れないのは流石です。長年にわたって練り上げられた息の合ったアンサンブルは、どこまで熱狂しても寸分の乱れもありません。

その熱さゆえに、たびたび聴きたくなる演奏ではありませんが、私にとってはかけがえのないディスクです。

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keitoshu: 千葉県に住む男性です。好きなクラシック音楽や読書、食べ歩きの思い出などを書いていきます。