ミステリー作家、貫井徳郎の連作短編集です。貫井氏といえば、デビュー作「慟哭」のラストのどんでん返しが話題を集めました。私も度肝を抜かれた一人ですが、その後も充実した作品をコンスタントに送り出し続けています。謎解き中心の本格推理のほか、「失踪」「誘拐」「殺人」の各「症候群」シリーズや、公安警察の裏側を描いた「修羅の終わり」がかなり面白かった記憶があります。
この「私に似た人」は、「小口テロ」をテーマにした10の短編からなる本です。1つ1つの短編は独立していますが、全体を通じて大きな1つの物語が完結します。
「小口テロ」とは、たぶん貫井氏の造語でしょう。長引く不況で貧困、格差が問題となっている現代日本。ネットの掲示板の中で「トベ」というハンドルネームの人物が、生活に行き詰っている人たちに対して、無差別テロを呼び掛けます。それに呼応した人がトラックで暴走して歩道に突っ込むといった、自らの命を投げ出したテロ行為に走るというのが各短編の基本構成です。
各短編の登場人物がだんだん絡み合ってきます。そして、誰が「トベなのか、どうしてテロをそそのかすような行為を始めたのかが、最後に明らかになります。こうした構成力はやはり上手いものです。
閉塞感の漂う世の中で、経済的に底辺であえぐ人たちの生活の描き方は、何とも身につまされるものがあります。
ただ、正直言うと、ネットリテラシーが発達した今の世の中で、ネットでそそのかされて自分の命を投げ出すような人が本当にいるのか。その辺りのリアリティーはやや乏しいのかな、とは思いました。
でも、まあそういうことは置いておいて、タイトル通りに、10編の短編の主人公が自分自身に似ているかどうかを考えながら読むのが良いのかもしれません。
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