米澤穂信さんの「満願」は6つの短編ミステリーを収めた本。2015年度の「このミステリーがすごい」(宝島社)1位、同年度「ミステリが読みたい!」(早川書房)1位、2014年度の「週刊文春ミステリーベスト10」1位と、史上初の3冠を達成した作品です。
解説の杉江松恋さん(文芸評論家)は
「満願」を読んだとき、私は松本清張の有名な短篇と、それが収録された作品集を手にしたときの気持ちが蘇るのを感じた。同じように過去の読書の記憶を呼び覚まされる読者は多いはずだ。短編ミステリーの雅趣がここに凝縮されている。
と書いています。
収められているのは、「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」「満願」の6作品です。
米澤さんといえば、だいぶん以前に「リカーシブル」という小説を読んだことがありますが、その本は、特に印象に残らなかったです。割と散漫で、かつ独特な世界観を持った作家だったなという印象はあります。
この「満願」という短編集も独特な6篇すべてに独特な世界観が描かれています。ミステリーといってもどんでん返しがあるのではなく、徐々に伏線が回収されていくといった手法で、最後まで読むと、何ともいえない余韻が訪れます。
私が特に良いと思ったのは、「万灯」「関守」「満願」です。
日本の商社員が尖兵として訪れたバングラデシュでの体験を描く「万灯」は、高度成長期のモウレツサラリーマンの生活ぶりが身につまされると同時に、一気に暗転するラストとの対比が印象的でした。
オカルト、怪談風の「関守」は、途中からなんとなくストーリーが読めてしまうのですが、主人公が味わう恐怖感はかなりのものです。
そして本のタイトルにもなった「満願」は、上記の杉江さんの解説にあるように、過去の文豪が書いたような香気のある佳品です。苦学生と下宿先の若奥様といった関係も昭和風です。奥さんとろくでもない夫との関係や、苦学生が弁護士になり出世していく経緯が挟まりながら、殺人事件が起き、なんとも言いようのない鬼気迫る犯行動機が最後に暗示されます。
ミステリーの短編集というと、私などは横山秀夫さんが大好きなのですが、横山さんほどではないにせよ、この「満願」の諸作品は気に入りました。「リカーシブル」で感じた印象とは異なり、かなり練達な作家だという印象を受けました。
ただ「夜警」など、ストーリー(ネタばれになるので書きませんが、警官が発砲してしまうくだり)自体にやや無理なところがあるのではないかと感じるところもありましたので、そのあたりは評価が分かれそうです。
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