朝日新聞に連載された新聞小説です。最近、文庫化されたので読んでみました。
冒険時代小説とでもいうジャンルでしょう。元禄時代、東北の小藩と隣藩の対立の中で、「化け物」が現れ、村や砦を襲います。幼い頃に生き別れた兄と妹、全滅した村で生き残った少年と猟師の祖父、旅をする絵師、浪人など多彩な登場人物が絡み合い、「化け物」が誕生したきっかけや、主人公の兄、妹の秘密が解き明かされていきます。しばしば登場する化け物の破壊シーンも迫力満点です。最後はハッピーエンドとはいえませんが、余韻を残します。
宮部みゆきさんは、まずは国民的な人気作家だけあって、読ませる力はさすがと思いました。大阪弁の「あんじょう」をなぜ東北の人が話すのかというような、細かい詰めの甘さは宮部さんの本ではよく出てくること。文章のよく言えば説明的、悪く言えば「くどさ」もいつも通りです。
それよりもこの「荒神」では、内容的に、いろいろなものを浅く、広く詰め込みすぎて、やや散漫になっている印象を受けました。兄妹の出生の秘密、2つの藩の対立とお家騒動、絵師と浪人の謎…。宮部さんの小説の良い所は、登場人物の機微な心情を丹念に、描いていくところだと思っているのですが、この「荒神」ではストーリー展開に力を入れすぎていて、もう一つ各登場人物に感情移入することができませんんでした。毎日の新聞連載ということで、やや強引に持って行ってしまった印象なのは気にせいでしょうか。
もう一つ常々感じていることは、宮部みゆきさんの小説は、どれも何となくどこかで見たか、読んだかしたという印象が拭えないことです。
題名だけのことでいうと、「理由」はかつてショーン・コネリーの映画がありましたし、「模倣犯」も「コピー・キャット」という米国のサスペンス映画と題名が類似しています。
題名のことだけでなく、この「荒神」で出てくる怪物は、映画「もののけ姫」を思い出してしまいます。もちろん内容は全然違いますが。
やや厳しくなってしまってすみません。でも、宮部さんの「楽園」という小説は、ストーリーはともかく、母と子の親密な情愛を丁寧に紡いだ、とても素晴らしい作品だと思っています。
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