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正統派の名演 マリナーのバッハ「ブランデンブルク協奏曲(全曲)」(タワーレコード)

やや旧聞ですが、2016年10月にイギリスの指揮者、ネヴィル・マリナーが亡くなりました。

マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団といえば、カラヤン・ベルリンフィルと並んで、膨大な録音を残していて、私も初心者時代にたくさんの名曲を彼らの演奏で知りました。晩年は巨匠としてNHK交響楽団に何度も招かれ、名演を披露していました(テレビで見ただけで実演には触れられませんでしたが)。

バロックから古典派、ロマン派、近現代の作品まで膨大なレパートリーを誇りましたが、やはりバロックから古典派くらいの音楽が彼らの真骨頂だったのではないかと思っています。バッハのブランデンブルク協奏曲は、1971年に音楽学者・鍵盤楽器奏者のサーストン・ダートが編纂した「ダート版」によって初録音。その後1980年、1985年と合計3回録音しています。

ブランデンブルク協奏曲といえば、言わずと知れたヨハン・セバスティアン・バッハが作曲した6曲からなる合奏協奏曲集。バッハの代表的な器楽作品です。

ブランデンブルク=シュヴェート辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒに献呈されたため、この名称が付いたとされています。作曲過程は明らかではないものの、アンハルト=ケーテン侯レオポルトに仕えていた頃、就職活動のために作られたとの説があります。つまり、ケーテン侯の宮廷楽長として活動していたバッハですが、宮廷楽団が縮小されることになったため、新天地を求めるためにこれらの作品を活用しようとしたというのです。

バッハほどの今日から見ての大作曲家でも、当時は宮仕えの使用人だったというのが面白いですね。就職活動に必死になって曲作りに励むバッハの姿が目に浮かぶようで、この曲集がぐっと身近に感じられます。

作曲順は6番→3番→1番→2番→4番→5番だとされます。作曲年代が長期間にわたっているために、各曲の統一性もなく、それが逆に、個性的な曲が集まった多様性の魅力があります。

第1番は管・弦によるいかにも宮廷風の華やかな音楽。第2番はトランペットの輝かしい響きが耳をとらえます。第3番は弦楽合奏の快活な曲。第4番はリコーダーが活躍します。第5番は全曲中最も有名でチェンバロが独奏楽器として縦横無尽に活躍し、後の作曲家のピアノ協奏曲の礎になった傑作です。第6番はヴァイオリンのないヴィオラ以下の低音楽器による渋い弦楽合奏曲です。

マリナーの2回目の録音のソリストは、ヘンリク・シェリング(ヴァイオリン)、ジャン=ピエール・ランパル(フルート)、ハインツ・ホリガー(オーボエ)、ミカラ・ペトリ(リコーダー)、ジョージ・マルコム(チェンバロ)…と錚々たる人たちが参加しています。まずはソリストの音と技に耳を奪われます。

マリナーの解釈は、第1回録音の「若さ」と、第3回録音の「円熟」のちょうど中間にあるものといえるでしょう。第2回録音当時はオリジナル楽器によるピリオド・アプローチが市民権を得始めた頃でもあり、そうした流派から見ると、マリナーの演奏はやや折衷的に見えるかもしれません。

でも私はモダンオケによる演奏と古楽器演奏の良いところを合わせたようなマリナー・アカデミーの演奏が嫌いではありません。レコーディング目的であろう泰山名曲でも常に真摯に取り組んできた彼らの真面目さが、ここでも発揮されているように感じます。

サーストン・ダートの考証を究めつつ、現代屈指のソリストたちの個性も生かしつつ、それでもなお全曲を通じると、清潔なアーティキュレーション、意志的な合奏力などマリナーならではの魅力がいっぱいです。録音の優秀さもあって、今でもブランデンブルク協奏曲のスタンダードな名盤といえるでしょう。

なお3枚組のCDには、1978年録音のバッハ「管弦楽組曲全曲(第1番~第4番)」も収められています。

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keitoshu: 千葉県に住む男性です。好きなクラシック音楽や読書、食べ歩きの思い出などを書いていきます。