ドヴォルザークの9つの交響曲のうち、人気が高く、よく演奏されるのは第9番「新世界より」と、この第8番ト長調作品88の2曲でしょう。8番は以前は「イギリス」というあだ名が付けられることも多かったですが、最近はあまり使われないようです。なぜイギリスなのかというと、ドヴォルザークの作品はそれまで、ベルリンのジムロック社が出版していたのですが、この作品については同社は「長過ぎる」と出版に躊躇したといい、ドヴォルザークはロンドンのノヴェロ社に依頼し、同社から1892年1月に総譜とパート譜が出版されたためです。
交響曲とはいいながら、形式的制約にとらわれず、どの楽章も独創的な構成を持っています。ドヴォルザークはメロディ・メーカーでしたが、この曲は特に美しい旋律に溢れ、いずれもボヘミア的な色彩が濃く流れています。ちなみに演奏の技術的にはすごく高度というわけではなく、学生オケなどアマチュアの団体の演目にもよく乗るのを見かけます。
CDは、「お国もの」のノイマン/チェコ・フィル、コシュラー/スロヴァキア・フィルはやはり聴かせます。有名なところではセル、カラヤン、ワルター、クーベリック、ケルテス、スウィトナー、アーノンクールなど名盤ぞろいですが、私が一番におススメしたいのは、カルロ・マリア・ジュリーニ指揮のシカゴ交響楽団のDG盤です。
録音は1978年です。
ジュリーニがシカゴ交響楽団を指揮してDGに残した録音は、すべてすこぶるつきの名演と言って過言ではないでしょう。ドヴォルザークは「新世界より」も録音していて、これも良い演奏です。シカゴ響時代の少し後のロス・フィル時代のブラームス2番の演奏について以前にも書いています。
この第8番も、ジュリーニらしい遅めのテンポで丹念に描きつつ、構成力の強い、スケールの大きな演奏です。シカゴ響も快調で、トゥッティ(総奏)の迫力、ソロ楽器の技術・歌わせ方など魅力的です。
初めて聴いたときに、特に「すごい」と思ったのは、ややマニアックですが、第3楽章のトリオ、弦楽合奏で奏でられる旋律の圧倒的な「歌」です。ジュリーニという人は、基本的に端正なのですが、ここぞというときに天に届けとばかりに歌うことがあり、このトリオのメロディーの歌わせ方はそんなジュリーニの特徴が表れたとても印象的な部分です。
正直、この部分だけで、ジュリーニ盤の存在価値は未来永劫不滅だと思うのです。
次にお勧めしたいのは、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ドレスデン・シュターツカペレのエテルナ(ベルリン・クラシックス)盤です。
私の持っているのはベルリン・クラシックスの輸入盤で、録音データが書いていないのですが、Ⓟ1976とあるので、この頃の録音だと思います。シューベルトの交響曲第6番が一緒に収録されています。
この盤の魅力は、何といってもシュターツカペレ・ドレスデンの音です。シカゴ響はもちろん巧いのですが、音色という面では、ドレスデンの温かさにはかないません。ホルンのペーター・ダム、ティンパニのペーター・ゾンダーマンの名技も聴かれます。
冒頭のチェロのメロディーからドレスデンの「いぶし銀」と形容される渋い音色で魅了されます。ブロムシュテットのまだ若い時期なので、前に前にと進めていく迫力が相当なものがあります。どこがどう、という特徴のある演奏ではないのですが、全体がすこぶる見通しが良く、自然なのです。しなやかさと剛直さがとても高い次元でバランスしている、これもまた稀有な名演だと思います。