海外ミステリーは結構好きなんですが、これはかなり面白く、寝不足になるほどでした。
続編の「グラーグ57」、さらに続編の「エージェント6」(いずれも新潮文庫)と合わせて、旧ソ連の国家保安省の敏腕捜査官、レオ・デミドフが活躍する3部作です。ただし、作者は英国人で1979年生まれ。現代のイギリス人が創作した冷戦時代の物語です。
最初の「チャイルド44」は、旧ソ連で実際にあった大量殺人犯にヒントを得た作品。主人公の若き国家保安省捜査官(日本で言うと戦前の憲兵、今の公安警察官でしょうか)、レオ・デミドフがあるスパイ容疑者を拘束しますが、組織の狡猾な罠にはまり、妻・ライーサともども田舎町の民間警察に左遷されてしまいます。
その町で少年の惨殺死体を発見。そこから物語は怒涛の展開を見せます。あとは読んでのお楽しみです!
ソヴィエト時代の秘密警察の思想犯探索、逮捕の様子や、一般市民の暮らしぶりなどが大変興味深いです。現代英国人の考えた物語なので、細部の詰めは求められませんが、雰囲気が良く出ていると思うのです。
最初の兄弟が森で失踪する場面が提示され、いったい何が起きたのか、最後になって明らかになるストーリーテラーとしての巧みさには舌を巻きます。中間のレオの活躍ぶりは起伏に富み、どんどんページが進んでしまいます。
「チャイルド44」に続く第2作「グラーグ57」は、レオの3年後の世界を描きます。見事に連続殺人犯を解決したレオは、その功によりモスクワに戻され念願の殺人課を作ります。折しもスターリンからフルシチョフに指導者が変わり、政治犯たちは続々と恩赦されていた時代の話です。
釈放された政治犯たちが、かつての捜査官や密告者を逆に告発するような時代背景。詳しくは書きませんが、ハンガリー動乱、シベリアの強制収容所など、冷戦下の東側の過酷な状況を丹念に描いているのが印象に残りました。ミステリータッチの第1作とは違い、アクション映画ばりの活劇的要素と歴史的要素、ヒューマニズム的要素をミックスさせた趣があります。
そして、レオ・デミドフ3部作の完結編「エージェント6」です。前作ではアクションスターのような活躍をみせたレオでしたが、本作では前半はあまり登場しません。後半はアフガニスタンで自堕落な生活を送る中年男という設定です。
米国にわたる終盤で真犯人を追い詰めるところ以外に、アクション的な要素はありません。
本作のテーマはズバリ「家族愛」だと思います。繰り返し語られる妻・ライーサの追悼、娘たちを思いやる心情が胸を打ちます。
ミステリー的な要素は皆無なので、そこを不満に思う人はあるかもしれません。しかし、冷戦下の米ソの対立や、アフガン紛争の実相など、政治的、歴史的な要素が満載で、そこは非常に興味深かったです。
ラストが殊に感動的。複雑な生い立ちだったレオが、命をつなぐかのような家族の存在に癒され、自らの存在意義に気付くかのような終わり方が非常に印象的でした。
3部作合わせて1つの大きなサーガ(叙事詩)が成り立ったように思います。これを若い英国人が書いたかと思うと、驚きを禁じえません。
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