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ロマンティシズム溢れる名演 デムス(P)、ドロルツ(Vn)ほか ブラームス「ピアノ四重奏曲全集」(1~3番)

タワーレコードのユニバーサル・ヴィンテージ・コレクションの2枚組。DGが1968年に「ブラームス室内楽作品全集」を企画した際に録音されたもの。イエルク・デムスとドロルツ四重奏団のメンバー(ヴァイオリン:エドゥアルド・ドロルツ、ヴィオラ:ステファノ・パッサージオ、チェロ:ゲオルク・ドンデラー)による68年の録音です。

ブラームスは交響曲が有名ですが、ドイツ・ロマン派の作曲家の中でも1、2を争う室内楽曲書きであり、佳作が多いです。

ピアノが入った室内楽曲は3曲のピアノ三重奏曲(トリオ)、同じく3曲のピアノ四重奏曲、そして有名なピアノ五重奏曲などがあり、いずれ劣らぬ名曲揃いです。

ピアノ四重奏曲の中では、第1番がロマンティックなメロディーに溢れていて一番親しまれているかもしれません。後にシェーンベルクがオーケストラ用に編曲していて、こちらもしばしばコンサートでも演奏されるほか、CDも何枚か出ています。

2番と3番は1番よりは渋いですが、聴き込むほどに味が出てくる、ブラームスらしい曲です。

デムスはグルダ、バドゥラ=スコダとともに若い頃、ウィーンの3羽烏と呼ばれたピアニストです。私見では、テクニックや構成力などでグルダに及ばないものの、即興性や感情的な表現力や詩情などを持ち味の人だと思います。

ドロルツ四重奏団は第一ヴァイオリンのドロルツを中心にベルリン・フィルの団員達が結成したカルテットで、EMIにシューベルト「死と乙女」やスメタナ「我が生涯より」などの録音を残しています。ブラームスもハインリヒ・ゴイザーとのクラリネット五重奏曲(CDはモーツァルトのクラリネット五重奏曲とカップリング)が通好みの演奏として知られています。

このカルテットもドイツ風のどっしりした安定感は持っているのですか、どちらかというともう少しドラマティックで歌謡性に傾斜した様式だったように思います。

ドイツの本流ならば当時のDGだとピアニストならエッシェンバッハやケンプ、カルテットだと英国の楽団ですがアマデウス四重奏団が契約アーティストだったはずです。演奏の様式としてはドイツ本流とは言い兼ねるこの組み合わせを、なぜDGが周年のブラームス全集で起用したのか。考えてみると不思議です。

しかし、結果的に当たりでした。ここでのデムスは即興的な歌い回しに実に味があります。技術的にはもっと上手い人もいますが、デムスの豪快で自信に満ちた演奏ぶりは素晴らしいと思います。

弦楽四重奏も、ドロルツのややクセのあるヴァイオリンに触発されのたか、パッサージ、ドンデラーも歌いに歌い上げる、情熱的な演奏になっています。

何とも不思議な演奏です。普通だったら破綻してもおかしくない奔放さなのに、何故か妙に説得力が強く、惹き込まれます。常設オケのメンバーのカルテットだからこそ、踏み外す前のどこかで平衡感覚が働いているのでしょうか。

それにしても、あの官僚的なDGが何故この組み合わせを起用したのか、本当に不思議です。

タワーレコードのオリジナル企画は、こういう掘り出し物が多いので油断できません。

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keitoshu: 千葉県に住む男性です。好きなクラシック音楽や読書、食べ歩きの思い出などを書いていきます。