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格調高い名演奏 スメタナ「わが祖国」 ドラティ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ベドルジハ・スメタナ(1824~1884)は、ドヴォルザーク(1841~1904)と並んでチェコの代表的な作曲家の一人です。当時オーストリア=ハンガリー帝国の支配下にあったチェコの独立への願望、民族主義と密接に関係する国民楽派を発展させた先駆者で、チェコ音楽の祖とみなされています。

代表作は6つの交響詩からなる連作交響詩「わが祖国」です。第2曲の「ヴルタヴァ」(モルダウ)が特に知られていますね。1874年から1879年にかけて作曲されました。

スメタナは1856年から1861年まで、スウェーデンのヨーテボリでピアニスト・作曲家として活動していました。この時期にフランツ・リストの影響を受けて「リチャード3世」など3曲の交響詩を書きましたが、これらは特に国民主義的な作品ではありません。

チェコの国民音楽として記念碑的な作品を連作交響詩の形で書こうと考えたのは、オペラ「リブシェ」を作曲中の1869年から1872年の間のことと言われています。第1曲「ヴィシェフラド」の完成に前後してスメタナは聴覚を失いましたが、作曲活動は続けられました。

6曲の標題は「ヴィシェフラド(高い城)」、「ヴルタヴァ(モルダウ)」「シャールカ」「ボヘミアの森と草原から」「ターボル」「ブラニーク」です。

正直言って、全てが名曲とは言い難く、全6曲を聴きとおすのはなかなか難儀です。私が聴くのも第1曲の「ヴィシェフラド」、第2曲「モルダウ」、それに第4曲「ボヘミアの森と草原から」のせいぜい3曲です。シャールカ、ターボル、ブラニークの3曲はときどき聴く程度です。

第1曲の「ヴィシェフラド」は、冒頭、ハープで全曲を通じて重要な主題が奏でられるところから、徐々にエネルギッシュに高まっていき、再びハープのテーマが戻ってくる辺り、なかなか良くできた曲だと思います。

モルダウは超有名曲。何度聴いても良い曲だと思います。ボヘミアの森と草原からは、収穫を喜ぶ農民の踊りなどが現れる、牧歌的な曲です。

ハンガリー出身の名匠、アンタル・ドラティが最晩年に名門、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮した演奏は、自然体の素晴らしい演奏です。スケールが大きく、格調高く、かつ各曲の標題音楽の性格をきっちりと表現しています。

1986年の録音で、フィリップスの優秀なデジタル録音です。当時のコンセルトヘボウはおそらく黄金期だったのではないでしょうか。各楽器のソロの名技性に加えて、アンサンブルの緻密さ、総奏でもハリボテにならない、ブレンドされた響きが素晴らしいです。

ドラティの指揮は非常に神経の細やかなもので、実は「モルダウ」以外あまり熱心に聴かなかったこの曲集を好きになったのは、この演奏によるところが大きいです。

民族性にあまり焦点を当てるのではなく、あくまでも純粋な交響詩として格調高く表現しているように聴こえます。スタジオ録音ではありますが、自発的なアンサンブルを生かした、活き活きとした歌に溢れた演奏です。

ターボル、ブラニークといった曲でもこれみよがしな絶叫調になることなく、しかし音楽が内在する迫力はたくまずして出ています。ボヘミアの森と草原からのような曲では、牧歌的な民族性がよく表現されています。

この演奏でこの曲集が好きになり、その後、クーベリックの数種類の録音、ベルグルンドとドレスデン・シュターツカペレ、ノイマン・チェコフィル、スメターチェク・チェコフィル、アーノンクール・ウィーンフィルなど、名盤といわれる演奏をいろいろと聴いてきましたが、私にとっての原点はやはりこのドラティ盤です。
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keitoshu: 千葉県に住む男性です。好きなクラシック音楽や読書、食べ歩きの思い出などを書いていきます。