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マニエリスムの極地 スクロヴァチェフスキのベートーヴェン「田園」

スタニスワフ・スクロヴァチェフスキはポーランド出身の指揮者。作曲家でもあります。1923年に生まれ、今年(2017年2月)亡くなりました。
2005~06年に、80歳を超えて録音したザールブリュッケン放送交響楽団とのベートーヴェン交響曲全集は、彼の芸術の集大成として多くのファンの賞賛を集めました(Oehmsレーベル)。第1、第2、第4、第5「運命」、そしてこの第6「田園」はライヴ録音です。
スクロヴァチェフスキは、NHK交響楽団や読売日本交響楽団の指揮台にもたびたび立ったため、日本での多くのファンがいます。私はといえば、在京オケとの演奏は聴いていないのですが、2000年代にザールとの来日公演でブルックナーの交響曲第8番、別の年にベートーヴェン・ツィクルスを行ったうちの第6「田園」&第7の回を聴いています。特に「田園」に感動した記憶があり、CDに収められた演奏もそのときの感動を残しています。
スクロヴァチェフスキは、個性的であるがゆえにどちらかといえば好みが分かれる指揮者といえるでしょう。私も正直言って、このタイプのマニエリスティックな指揮者(マゼール、ティルソン・トーマスなど)はあまり好きな方ではありません。
それがスクロヴァチェフスキをほかならぬベートーヴェンで推すのは、ひとえに実演体験があったからです。
会場は鳴ることで知られる東京オペラシティ大ホールでした。たしか前年に聴いたブル8は、感心はしたけど感動には至らない記憶があります。テンポだけでなくアゴーギクやデュナーミクを細かく動かす様式が、違和感がありました。
それでもオペラシティを「箱鳴り」させるオケのパワーには圧倒されました。オーマンディにも通じる、オケを鳴らす職人技をすら感じました。
ベートーヴェンのときも、さしものスクロヴァチェフスキとザールのオケも、あの鳴らないことで有名な7番では、細かい工夫ばかりが耳に付いて、あまり感動しなかった気がします。
しかし、田園はすべてがハマった名演でした。細かいマニエリスムが、快速テンポの中で次々と決まっていく感じ。そんな中でも、第1楽章とフィナーレのそれぞれ再現部の終わりの部分では、オケのフルパワーを引き出して、圧倒的な音の塊がぶつかってきたのを、今でも鮮明に思い出すことができます。
そんな実演の感動が、やや弱まってはいるものの、CDでも聴き取れる気がするのです。ほかの演奏はというと、実演でイマイチだった7番は、意外にCDだと良いです。そのほかの曲は、すごいと思う部分は多いものの、やはり感動するほどではありませんでした。ピリオドアプローチが正統派になった現代、モダンオーケストラでやるベートーヴェンとして、総決算的な演奏であるのを認めるのにやぶさかではありませんが。
今から思えば、あんなに何度も日本に来ていたのだから、もっと積極的に聴いていれば良かったと思っています。

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keitoshu: 千葉県に住む男性です。好きなクラシック音楽や読書、食べ歩きの思い出などを書いていきます。