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良い意味での職人芸の極地 オーマンディのメンデルスゾーン「スコットランド」

夏の音楽というわけではないのでしょうが、暑い時になぜかメンデルスゾーンが聴きたくなります。 交響曲では第3番イ短調 作品56「スコットランド」が、夏の旅行をイメージするのか、この時期にぴったりのような気がします。

メンデルスゾーンの5番まである交響曲のうち第3番となっていますが、実際の作曲順では最後の交響曲です。それだけにメンデルスゾーンとしても最も完成された作品であるとともに、ロマン派の交響曲の中でも人気、内容ともに代表的な作品であるといっていいでしょう。

「スコットランド」という題名は、1829年にメンデルスゾーンがイギリスに初めて渡り、7月にエディンバラのホリールードハウス宮殿を訪れ、宮殿のそばの修道院跡で16小節分のメロディーを書き留めたことに由来します。これが、この交響曲の序奏部分であり、この曲の最初の着想になりました。しかし翌年にイタリアを訪問し、第4交響曲「イタリア」の作曲にかかったり、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者になるなど、多忙になったため、「スコットランド」の作曲は10年以上中断され、完成したのは1942年でした。

幻想的な序奏に始まる第1楽章、スコットランド民謡を思わせる第2楽章も良いのですが、私が好きなのは第3楽章です。とても幻想的で憂愁に満ちた美しい旋律が次から次へと現れます。そして一転して第4楽章はリズミカルな主題で始まり、最後は長調に転じて壮大に曲を結びます。

名盤は多いですが、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団のRCA盤が最高です。1977年、オーマンディ晩年の録音です。アメリカのオーケストラということで敬遠される方がいるとしたら、ぜひ先入観を捨てて聴いてみてください。終始一貫して格調高く、バランスの良い演奏です。「シルクのような」と形容された弦楽セクションの美しさと、オーケストラ全体が溶け合ったまろやかな響きは比類のないものです。

解釈も「中庸」というと語弊がありますが、何も変わったことはしていないのに、曲の良さがストレートに伝わってきます。私の好きな第3楽章も陰影のある、豊かな歌に満ちた、実に味わい深い演奏です。膨大なオーマンディのレコーディングの中でも、最高のものの一つだと思っています。

オーマンディは故・吉田秀和氏が酷評したり、故・宇野功芳氏があまり評価しなかったりしたせいか、我が国での愛好家の評価は低い気がします。でも、虚心坦懐に聴いてみると、ものすごくオーソドックスな、曲の良さを最大限伝えようとする真摯な指揮者だったのだと思っています。そのきっかけになったのが、この「スコットランド」です、
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keitoshu: 千葉県に住む男性です。好きなクラシック音楽や読書、食べ歩きの思い出などを書いていきます。