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深い余韻が残りました 「還れぬ家」 佐伯一麦著(新潮文庫)

time 2017/09/12

「渡良瀬」で圧倒的な感銘を受けたので、佐伯一麦さんの作品がもっと読みたくなり、同じ新潮文庫に入っている「還れぬ家」を読んでみました。親の介護、幼い日の家の記憶が交差する私小説で、淡々としながらきめ細かな描写や心情の吐露などが深い余韻を残し、やはりこのジャンルでは最高峰に位置する作家だとの思いを強くしました。

物語の基本線は、佐伯さんのお父さんの介護。認知症の症状が出始めて、徐々に悪くなり、母親、妻と一緒に病院やデイサービスへ連れて行ったりする様子が、逐一描かれます。そこに実家で暮らしていた高校生までの断片的な記憶が散りばめられます。

体面を重んじるお母さんから厳しくされた幼少期や、文学や音楽に傾倒した高校時代、兄姉との確執など、「こんなことまで書いていいの?」と思うくらいですが、やはり私小説というのはこういうものなのでしょうね。親兄弟、親族の病気のことや醜いところもさらけだすというのは、仕事とはいえ、やはり大変なことなのだと思いました。

そして、佐伯さんという人は、人一倍ナイーブであるとともに、愚直といってもいいほど真摯な生き方をする人だということもよくわかりました。父親を病院へ連れて行ったり、入所できる施設を探したりする場面が何度となく出てくるのですが、(実際にはわかりませんが)父親や母親のことを第一に考えて行動するのは、だれでもできることではないと思います。

執筆中に東日本大震災が起き、途中からお父さんの死後の記録と震災当時の記録がない交ぜになります。しかし混乱することなくスーッと読み進められるのは、類まれな筆力のなせる業といっていいでしょう。

私自身も親の介護の問題も考えなければならない年代になってきて、人ごとではないという気持ちで読みました。佐伯さんがことあるごとに幼少期にお父さんとの記憶を思い起こすように、私も自分の父親との記憶を思い出してみたいと素直に思えました。

読み終えた後に、深刻なテーマにもかかわらず、カタルシスを感じたのは、介護をやり遂げたという佐伯さんの思いが感じられたからかもしれません。

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