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ブルックナー「交響曲第6番」の名盤   ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団

time 2017/08/26

音楽評論家の故・宇野功芳氏は、第1、第2、第6といった規模の小さい曲に目が行くようになると、ブルックナーの愛好家としても奥義に入ってきた、というような趣旨のことを書いていました。第5、第8などに比べると、確かにこれらの曲は演奏機会も少ないですが、なかなか魅力的です。中でも第6番は初期の1、2番に比べると、曲自体よくできていますし、後半2楽章はやや単調なものの、前半2楽章はブルックナーを聴く醍醐味にあふれた名曲だと思います。

アントン・ブルックナー(1824~96)の交響曲第6番イ長調は、1879年から81年にかけて作曲されました。この間の1880年にブルックナーは夏季休暇でスイスに出かけていて、この曲でも大自然への愛が表現されています。

曲を書いた後で改訂する癖のあったブルックナー。常に版の問題がつきまといますが、この第6番は第5番同様に改訂されていないため、ともに原典版であるハース版、ノヴァーク版の違いはほとんどありません。楽器編成は2管編成の木管にホルン4、トランペット・トロンボーン各3、チューバ1、ティンパニと、ブルックナーにしては小規模です。演奏時間も約55分と、彼の交響曲の中では短い方です。

この曲は前半2楽章が特に優れていると思います。特に、ドイツ語で「きわめて荘重に」と指示された第2楽章はブルックナーのアダージョ楽章でも出色の美しさです。葬送行進曲風の第3主題の沈痛な表情は胸を打ちます。

演奏ですが、私は若い頃は、宇野功芳さんに影響されて、クナッパーツブッシュ、シューリヒト、マタチッチ、朝比奈、ヨッフムなど特定の指揮者しかブルックナーの世界を表現できないと思っていました。でも、最近ではいろいろな演奏を楽しむようになってきました。傾向としてはあまりいじくらずストレートに作品を表現してくれるような演奏が好みです。

紹介したいのは、クリストフ・フォン・ドホナーニの指揮、クリーヴランド管弦楽団のデッカ盤です(1991年録音)。「ドホナーニのブルックナー?」と首をかしげる人も多いかもしれません。80年代から90年代にかけて、デッカに大量の録音をしていたコンビですが、昔は私も食わず嫌いで、宇野さんではありませんが、アバド、ムーティ、レヴァインなどと同じ凡庸な指揮者だと思っていました(もちろん、今では彼らも全然凡庸だとは思っていません)。

しかし今になって、彼らの録音を聴いてみると、実に素晴らしいのです。ジョージ・セルに鍛えられ、アメリカ1の楽団だったクリーヴランド管弦楽団ですが、ロリン・マゼール時代にはやや低迷した感じがあります。その後を次いだドホナーニは最初、馴染みがない指揮者でしたが、ハンガリーの作曲家、エルンスト・フォン・ドホナーニを祖父に持つ人で、1929年ベルリン生まれで、まだ活躍しています。

デッカとテラークにスタンダードなレパートリーを大量に残していて、当時はドヴォルザークの交響曲第8番、第9番を聴いてクリアな録音と相まって、細部まで聴き取れる明晰さが素晴らしいと思ったものの、当時の私はやはりこのコンビを軽く見ていたのか、その他の録音はほとんど聴いていませんでした。

ブルックナーは第3番から第9番までの7曲を録音していて、最近、タワーレコードからボックスで再発売されました。それを聴いて、どれもこれも素晴らしく、ドホナーニのすごさを再認識した次第です。第5、第7、第8、第9ではいろいろな良い演奏が多いので、ドホナーニが1番というわけにはいきませんが、この第6は、ヨッフム、朝比奈などは私には今ひとつピンとこなくて、ドホナーニが最も優れているのではと思っています。

オケの明るい響きを生かして、スコアの隅々まで光を当てています。持って回ったような表現はなく、即物的な解釈なので、それが物足りない人もいると思いますが、私は最近はこうした演奏を好みます。

第1楽章、冒頭のヴァイオリンの付点リズムから、自信を持った歩み。低弦の主題提示も音価をきっちり取ってブルックナー独特の3連音符の特徴を明確に表現します。第2主題も深刻にならず、一見さくさくと進みます。オケのうまさはセル時代に戻ったかのようで、特に金管のコラールなどは各楽器が絶妙にバランスされ、かつ溶け合った響きが素晴らしいです。

驚いたのはコーダでティンパニのリズムを崩している部分で、これは一瞬何かの間違いかと思ったほど奇抜なアイディアです。ほかには聴いたことがありません。ドホナーニらしからぬ遊び心なのでしょうか?どうしてここだけ崩したのか疑問は残りますが、相当なインパクトがあるのは間違いないです。

通常、しっとりと演奏される第2楽章も、妙に引きずることのない淡々とした演奏によって、かえってこの楽章の美しさが際立ちます。葬送行進曲のような第3主題では、さすがに感極まったかのように切々と歌い上げます。

金管がバリバリ鳴る第3楽章、第4楽章は彼らの面目躍如。こういうのを昔の宇野さんなどはうるさいとかブルックナーらしくないといって嫌ったのでしょうが、私は今では嫌いではありません。むしろコントロールされていなくて、団子のような音の塊よりは、ドホナーニのような整理された演奏の方が好ましいと感じるようになりました。好みって、年をとると変わるものですね。

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